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月の裏側 2
2006 / 07 / 18 ( Tue )
月の裏側 2


啓祐はそのまま駅の方角へと向かい、ひた走ったが
美佳の姿を何処にも捉えることはできなかった。

怖いほど聳え立った入道雲が
蝉時雨をも圧倒する勢いで君臨している夏の空。

眩暈がしそうな暑さだった。

たまらず駅前のコンビニへ逃げ込もうかと思ったが
ふと、自分が学校を飛び出してきたのだということに気がついた啓祐は
急に、自分の姿を誰かに見られてはまずいという気持ちになる。

この生真面目すぎる性格を、佐伯が時々窘めることがあった。

学校帰りの喫茶店や繁華街などへの寄り道すら
啓祐が断るからだ。

「鉄壁の守りだな」 

断るたびに佐伯は呆れたようにそう呟いた。



ふいに、啓祐はあの場所のことが頭に浮かんだ。
殺人事件があったという、池のあるあの場所。

此処から電車で二駅・・と考えて、啓祐はその駅が
嘗て美佳が自分に手紙を手渡したあとで降りた駅であることを思い出した。


啓祐の心の中で奇妙な好奇心が疼き始める。
それは同時に小さな恐怖に似た感情も運んできたが
誘惑がそれを跳ね付けて、好奇心がむくむくと
さっき見上げた入道雲のように大きくなり始めた。



啓祐は改札を抜けた。












蓮見駅という名のその駅は
蓮の頃には見事なほどに一面に浄土の花が美しく咲き乱れる寺がある。

祖母が毎年、蓮の開花を楽しみにしている寺は此処にあったのかと、
啓祐は駅の壁に設けられた寺の広告看板を見つめた。



降りてしまった と、啓祐は思った。


衝動的な力にまかせて電車に飛び乗ったのはいいけれど
いざ、現場へ向かおうとすると、さすがに躊躇した。

それまでブラウン管の向こう側の
非日常的な世界でしかなかった“殺人現場”という響きが
急にリアルなものになって、啓祐の前にすっくりと立ったような感覚だった。



啓祐は駅のベンチに腰を下ろすと、ポケットから手紙を取り出した。

美佳が自分へと手渡した手紙。
あれは確か、桜が綺麗に散り、代わって柔らかな緑の葉が
初夏の光と風を爽やかに運び始めた頃だった。

封筒から広告の紙を取り出す。




つ きの うら こ こ からだ し



啓祐は無言で文字を見つめた。




何度も折りなおされたのだろうか。紙には無数にくっきりと線が残る。
啓祐はその線を辿るようにして、紙を折り始めた。

なんとなく予感があった。
啓祐の勘が外れていなければ、それは、
あるひとつの形を完成させるだろうと思った。


果たしてその通りになった。


啓祐の掌に、紙飛行機がひとつ折りあがったのだ。








ふいに、細い指が2本伸び、紙飛行機がふわりと宙へ浮いた。

驚いて顔を上げた啓祐の前に、美佳が立っていた。



























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