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18:38:56 | | page top↑
2006 / 07 / 14 ( Fri )
 
満月が朧ろに東南東の空に滲む頃
転がる3本目の缶に触れる指先をぼんやりと見ていた。


幸せと寂しいが同居している心を
冷やすべきか暖めるべきかで出遅れた好奇心が
行くあてをなくし、手持ち無沙汰で今、ホームの端に佇んでいる。


快速電車を見送れば、準急が滑り込むから
前から4両目に乗り込めば、ちょうど階段の手前で降車できる。


規則正しく滞りなく繰り返される日常に、隙間を作ることは許されない。
まるでエア・ポケットの如く現れる空域などまるで無意味であり
必要のないものは徹底的に排除することで、
誰もが心の均等を保っているのだから。


彼女が繰り返し唱えていたことと言えば
できるだけ傷つかずにあの橋を渡りたいということぐらいで

剥き出しの足をやたら気遣うくせに、スカートの裾が翻るのには無頓着で
大事なものを悉く見落としては、中途半端な達成感を得て微笑んでいる。



幸せと呼ぶにはあまりにお粗末な感情に思えるのに
誰もがその粗末な欠片を拾い集めることに躍起になる。


居場所だ。つまりは。
何処かで誰かが知っていてくれる“自分”
誰もが結局はそれを求め欲し手に入れようと、奔走する。



待合室に並べられた鉢植えの緑に、細かい虫が無数に飛び交い
蛍光灯の無機質な白に照らされる数だけ
君の中にしっとりと、嘘が降り積もっていく。


いつまでも癒されることのないその寂しさは
根本を見つめ尽くすことから意識的に遠ざかろうとしている
君の弱い心が齎しているものであり

誰に抱かれても、誰に甘えても、決して手に入れられない安らぎは
いつしか君の横顔にくっきりと暗い影を落としていくだろう。




ひとつの嘘が、沢山の白い筋となって
水に注いだミルクみたいに細く細く広がるのを、ただ僕は見ていた。


彼女の唇を縁取る紅が、快速電車の過ぎた後のホームに散り
まるで彼岸花のように怪しげに咲き乱れては、
いつか線路脇へと弾けて消えた。




 


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